もう、暇潰しは出来なくなった

じめじめとした湿度の高い梅雨の時期。雨に打たれたであろう烏を、私は教室から見ていた。鳥は雨に濡れるのは厳禁だからか、その烏は教室のベランダに静かに佇んで居た。皆は授業に集中していて、烏の事は誰一人として気付かない。妙に心地の良い空間だった。

下校時間になり、皆が一斉に話し出した。さっきまでの静けさとは思えない程の雑音を私の耳は感じ取った。少しだけ、頭痛がした。

今日も私は家を遠回りして帰る。一時の逢瀬が最近の私の楽しみだったりする。『暇潰し』そう一言で終わらせられる程度の軽い気持ち。

前に二人のカップルらしきシルエット。二人は雨が降りそうだと云うのに、傘さえ持っていない。心配する気持ちも無く、私は楽しげに会話をするカップルらしき人物を卑下していた。

雨が降り出した。ポツポツ…最初は小雨だった雨も段々と大降りになる。前のカップルらしき人物達は慌てて雨宿り出来そうな所を探していた。しかし生憎そんな場所はこの辺りには無く、在るとしたらスキルアウトの溜り場である路地裏のみ。私は溜息を吐き、そのカップルらしき人物達を静かに見据えた。

「…。」

「…あ、あの…何ですか?」

不審に思った女が私に困惑した表情で話しかけて来た。男の方は、少し鋭い視線を私に向けていた。

「はぁ…この傘、あげます。」

「え!?でも、貴女は…?」

「私は良いです。近くに知り合いの家がありますので、雨宿りします。」

「でも悪いですよ!」

「大丈夫です。相合傘でもしてサッサと行ってください。」

「…ありがとうございます。」

馬鹿そうな女は嫌味を言われたことに気付いたのか、不機嫌そうに言い放った。そして傘を差し、男に一度微笑みかけ歩き出した。歩き出した時、再度此方を見て睨み付ける様な視線を此方に向けた。私は女に機械的な作り笑顔を見せた。一瞬驚き、癪に障ったのか勢い良く男の方を見た。

傘を差しながら相合傘をするカップルらしき人。

傘を渡して、雨の中で静かに佇む私。

通行人は誰一人として私の存在に気が付かない。傘で視界が狭まっているせいだろう。私は、烏になった様に感じた。

もう、暇潰しは出来なくなった