ある晴れた日、いつも通りの風景。『時』を表した彼女の姿が一人。
彼女は縁側に座って居た。正座をし、穏やかな目で庭を見ていた。そしてどこから来たのか、少女が彼女の隣に座った。すぐに彼女はそれを悟り、重たい口を開いた。
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昔、愛した人がいた。
茶髪で、長身で。まるで見た目はホストの様な少年だった。話しかけてきたときはどこのナンパだ、と思ったもんだよ。そうしたら意外にいい人でねぇ。段々と、その人に引かれていった。
告白は向こうからだったんだよ。私は相手に引かれていたけど、今の関係を壊すのが怖くて。告白して壊す位なら告白なんてしなければいいと、諦めていたんだ。苦しくても、この恋は大事にしたかったのさ。そしたら相手が告白してくれて、舞い上がって受け入れたよ。それから毎日の様に会って、笑いあった。
でも、いつの日か、相手の連絡はパタリと止んだ。心配したもんさ。相手の家を何回も訪ねて、携帯だって何回も電話して、メールして。だけど、家にはいつの間にかほかの人が住み始め、電話は現在使われていない番号、メールは送信できませんでした。ショックだった。あの人との繋がりが、一瞬にして全て消えたの。一緒に歩いた道も、一緒に行った店も、一緒にいた部屋も。私の思い出の中にしか存在してない。
辛い。でも、『時』というものは時に残酷で。そんな私の頭の中にしか存在しない思い出さえ、私から奪っていったの。もうあの人のことは言葉でしか表せない。頭の中に姿は浮かんでこないの。悲しくもないんだよ?だって、思い出が無くなってしまったから。時間が『想い』さえ消し去ってしまったから。
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その話を聞いた少女は泣き出した。大声を上げて、まるで赤子のように顔を真っ赤にして。彼女はそんな少女を優しく抱きしめた。少女は譫言の様に忘れたくない、忘れたくないと言葉を紡いだ。
同じ空の下、違う未来を
散々泣き終えた少女は、彼女から離れ言った。
「ありがとう」
そんな少女に彼女は優しく微笑んだ。
「時は残酷だよ。でも、どうせ忘れてしまうなら…」
彼女は俯いた。
「最初から出会わなければ良かったって?」
少女がさっきまで泣きじゃくっていたとは思えない挑発的な表情で言う。
「私は、後悔してないよ」
彼女は目を見開き驚愕した。
「あの日々は確かにあったし、輝いていた。たとえその記憶を『時』が忘れさせても確かにそこにあった」
彼女はふっと笑い、
「思い出させてくれて、ありがとう」
彼女の身体は透けて、消え去った。まるで元々存在すらしなかったかのように。
