「私は片翼を失って、この世界に落ちてしまったの」
そういって笑いながら泣いた彼女を、俺は殺した。片翼の天使を羽ばたかせたかったはずなのに、人を愛したことがない不器用な俺はどうやら間違えたらしい。
—
俺には『黒い翼』と呼ばれる翼を持っていた。名前は人間には見えない翼があると言ったが、真っ黒に染まった俺にはそんな綺麗な翼は無いように思えた。それを言うと、名前は酷く優しい瞳をして綺麗だ、と笑った。
「オマエの方が綺麗だろ」
「一方通行の翼は大きくて、雪みたいに真っ白」
「…」
「私の翼は白い紙に墨をこぼしたみたいにまだらな色」
「その翼とやらは、人には見えないモンなンだろォ?」
「うん」
「だったら、俺に見えるオマエの翼の色は真っ白な2対の羽なンですよォ」
「…うん」
「だから、勝手に決めつけてンなよ」
名前は今まで堰き止めていた感情が決壊したかのように大声で泣き出して、痛いくらいに抱き着いてきた。密着した肩から涙が伝い、着ている服に染みが出来る。ひとしきり泣いた後、目の端に浮かぶ涙を手で拭いながら女神みたいに綺麗な笑顔で笑う。
そんな後だからか、殺してくれと懇願されて、いつものように俺は殺してしまった。
首の中央にある少しだけ固い喉仏の部分に両の親指を重ね、素人みたいに力を加える。ギチギチと力の加わる音がして口の端から飲みきれなかった唾が垂れる。パキ、と嫌にはっきりした音が鳴った。徐々に光を失う瞳と対照的に、名前は安らかな表情をしていた。もう動かない等身大の人形に、もう枯れたはずの涙があふれた。
殺す優しさ
(片翼の天使の最後のわがままは俺を殺した)